法学部生の進路というと、まず弁護士を思い浮かべる人は多いかもしれませんが、それだけではありません。法学部の勉強内容は意外に幅広く、そのため多方面での就職に有利であるといわれているのです。ここでは、法学部では具体的にどのような勉強をし、どのような資格が取得可能なのか、そして実際どういった業界に就職しているのかについて紹介します。
※2022/3~2023/3の当社相談参加者へのアンケートで『満足』『どちらかといえば満足』を選んだ方の割合
法学部とはどんな学部?
法学部は主に法律について学ぶ学部です。中学・高校でも日本国憲法や民法・刑法といった一部の法律について触れることはありますが、大学の法学部で学ぶのは法律学や経営法学、基本六法などさらに専門的な内容です。とはいえ、決して六法全書の内容を丸暗記しなくてはならないというわけではありません。六法全書自体は、必要なときに過去の判例などの必要な内容を調べるために使うものです。法学部で学ぶのは「法学」といって、いわば法のマインドを学ぶものなのです。
法学は大きく分けて「解釈論」と「立法論」に2つになります。解釈論は、難しい言葉で書かれた法律が、実際に裁判や生活の中でどのように解釈され使われているかを知るものです。法律は抽象的な表現が多いため、ケースによってさまざまな解釈が可能となっており、過去の判例によってはその後の解釈にも大きな影響を与えることがあります。「立法論」は既存の法律と現代社会の整合性を考えるものです。明治など古い時代に制定された法律がそのまま使われている場合、現代社会には合わなくなっていることもあるため、その場合は法律の改正や新たな法律の制定も考える必要も生じます。そうしたことについて考えていくのが「立法論」です。
法学部では、実はこうした法律に関する勉強をするだけではありません。法学科、法律学科といった法律を専門に学ぶ学科のほかに政治学科やビジネス法律学科といった学科もあります。このような学科では政治やビジネスについても学ぶことができるので、就職先のターゲットとなる業界・業種もおのずと変わってきます。いずれにしても法学部で学ぶ内容は実社会で役に立つものであり、そのため就職には非常に有利とされているのです。
※2022/3~2023/3の当社相談参加者へのアンケートで『満足』『どちらかといえば満足』を選んだ方の割合
法学部の就職先~法曹界編~
法学部で学ぶ人の中には法曹界への就職を目指す人も多いでしょう。ここからはその中でも「法曹三者」といわれる代表的な職業である裁判官・検察官・弁護士について紹介します。
裁判官
裁判官は全国各地の裁判所で行われる裁判を取り仕切り、最終的に判決・決定を下すのが仕事です。事前に提出された資料をよく読み、当事者や証人、弁護士や検察官などの話をよく聞いて、法律に従って結論を出します。裁判官は誰かに肩入れすることなく、公正中立な立場で判断することが重要です。
裁判には大きく分けて民事裁判と刑事裁判の2つがあり、そのどちらを担当するかによって裁判官の仕事も違ってきます。民事裁判は、個人や企業といった私人の間で起きたトラブルを解決するものです。代表的なものに交通事故や離婚の慰謝料、相続や名誉毀損などの訴えがあります。この場合、裁判官は双方の主張を聞いて賠償や調停などの決定を下します。刑事裁判は、刑事事件の犯人として起訴された被告人に対し、有罪か無罪かを判断し、有罪の場合は適切な量刑を判断するものです。
検察官
検察官は事件を捜査し、必要に応じて犯人を起訴し裁判で求刑を行います。事件が起きた場合、まずは警察が捜査をして被疑者を逮捕しますが、そこから先は検察官の仕事です。捜査書類や証拠品、被疑者の身柄が送致されたら、検察官は被疑者本人への取り調べや関係者への聞き込み、証拠の確認などを行います。そして被疑者が実際に犯行を行ったと判断したら起訴します。起訴とは裁判にかけることですが、この起訴を行うのは検察官のみの権限です。
裁判において検察官は証拠を固め、法廷での証人を選択し、過去の判例を調べて被告人がどのような罪に当たるかを示します。そして被告側の弁護人から反論や証拠の提出などを受けたうえで求刑し、裁判官の最終的な判断を待つというのが大まかな流れです。検察官には検事総長、次長検事、検事長、検事、副検事という5つの種類がありますが、一般に「検察官」と呼ばれるのは検事と副検事で、検事長は高等検察庁のトップ、次長検事は最高検察庁に所属しそのトップが検事総長となっています。
弁護士
弁護士というと法廷で被告人の弁護をする姿を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、弁護士の仕事はそれだけではありません。刑事や民事など広範囲にわたるトラブルに対し、法律の専門家として相談に応じ、その解決を図るのも大切な仕事です。扱う問題が広範囲なため、人によってさまざまな得意分野があるのも弁護士の特徴です。犯罪すなわち刑事事件を得意とする人もいれば、企業の顧問弁護士として社内外のトラブルを解決するのが得意な人もあり、また離婚調停や相続の問題を得意とする人もいます。
裁判以外にも法律相談や事務処理などその仕事は多岐にわたり、また裁判も複数を掛け持ちすることもあって、弁護士はなかなかハードな仕事です。法律事務所に所属して仕事をすることが多いですが、国や地方公共団体、あるいは企業に所属して活躍する弁護士もいます。さらに弁護士会や法テラスなどでの法律相談にも応じるなど、法律の専門家として人の権利を守るのが弁護士の重要な役割です。
なお、ここで紹介した「法曹三者」のいずれも、その職に就くには司法試験に合格することが必要です。司法試験を受けるためには法科大学院を修了するか予備試験に合格する必要があり、そのうえで合格率は20%とかなり厳しい試験となっています。また、試験に合格すればすぐになれるというわけではなく、司法修習として司法研修所で1年学び、二度の修了試験に合格してようやく法曹界へデビューとなります。
※2022/3~2023/3の当社相談参加者へのアンケートで『満足』『どちらかといえば満足』を選んだ方の割合
法学部の就職先~民間企業編~
法学部を卒業したからといって、すべての人が法曹界に進むわけではなく、一般企業に就職する人も数多くいます。
金融関係
金融業界は法律と深くかかわりがある業界です。金融商品を取り扱う際には金利や担保、物権に関する法律の知識が必要になるため、法律に詳しい人物ほど活躍しやすいといえます。
また、法律の知識そのものよりも、調整力や論理的思考力が買われて金融業界に就職するというケースもあります。法学の勉強では、法律によって問題にかかわる人たちの利害の切り分けや調整を行うことを学びますが、そのことが金融の仕事に応用できるというわけです。法律を丸暗記するのではなく考え方を学んで身に着けるということが、こういった形で生きてきます。金融業界は他学部の学生からも人気ですが、このような点で法学部の学生は有利であるといえるでしょう。
コンサルタント
企業の抱える問題を解決し、発展の手助けをするコンサルタントという仕事も法学部の学生に人気があります。一口にコンサルタントといっても経営、IT、人事など様々な分野があり、それぞれに専門知識が必要です。同じ分野であっても対応する業種はその都度違うため、最初から各業種ごとの専門知識を持っている必要はなく、むしろ問われるのは基礎的な能力と新しいことを取り込む力です。
法学部の学生は、大学での勉強を通して法律的な考え方を身に着けています。物事を多方面から見つめ、一つ一つの事実を法律と照らし合わせて細かく考え、それらを基にして最終的な判断を下すという論理的な考え方ができるのです。この「論理的思考」という土台は法学部の学生にとって大きなアドバンテージとなります。ある意味、コンサルタントの仕事は法曹界の仕事に似ている部分もあるといえるのかもしれません。
商社
商社も法学部生に人気のある就職先です。商社には専門商社と総合商社があります。専門商社は例えば鉄鋼、電気材料、医療品など特定の分野に絞ってトレーディングや事業投資を行っていますが、総合商社は幅広い商品を扱っており、特に海外との取引が多いのが特徴です。若いときから世界を飛び回って巨額のお金を動かす商社の仕事に憧れる大学生は多いでしょう。
商社の業務の柱であるトレーディングと事業投資には、法律の知識が必要な業務も多くあり、法学部生が大学で学んだ知識を生かして活躍することができます。経済学部・商学部と並んで法学部は商社を目指すなら有利な学部といえるでしょう。
※2022/3~2023/3の当社相談参加者へのアンケートで『満足』『どちらかといえば満足』を選んだ方の割合
法学部の学生向け。就職に有利なおすすめ資格!
法学部の学生向けに、就職に有利になるおすすめ資格を紹介します。
おすすめ資格1.司法書士
司法書士は、裁判所や検察庁、法務局に提出する書類の作成や不動産・法人などの登記手続きを一般の人に代わって行う仕事です。これらの手続きには法律の専門知識が必要なため、一般の人では難しく、司法書士が代理で行うことがほとんどです。また、訴訟代理業務も法律によって認められており、簡易裁判所での訴訟や調停・和解などを代理で行うこともあります。身の回りのトラブルに関する法律相談を受けることもあるなど、弁護士よりも気軽に相談できる街の法律の専門家ともいえる職業です。
司法書士になるためには、司法書士試験に合格することが必要です。試験は年に1回行われており、7月の筆記試験に合格した人だけが10月の口述試験に臨むことができます。最終的な合格発表は11月です。筆記試験は憲法や民法、刑法など11科目で、マークシート方式と記述式があります。口述試験は不動産登記法、商業登記法、司法書士法から出されることが多く、面接形式で行われます。
受験資格は特になく、年齢・学歴を問わず受験することができますが、例年合格率は3%程度とかなりの難関です。高度な知識が必要なため、法学部出身者が有利といえるでしょう。資格取得後は司法書士事務所や企業の法務部などへの就職の道が開けます。
おすすめ資格2.社会保険労務士
社会保険労務士は、その名の通り「社会保険」と「労務」の専門家です。その業務内容は1号業務から3号業務までの3つとなっています。1号業務は社会保険や人事・労務に関する書類の作成と提出代行、2号業務は法定帳簿の作成、そして3号業務は社会保険や労務に関する相談を受け指導を行うことです。1号・2号業務は独占業務となっていて、社会保険労務士以外の人が行うことはできません。
労働環境や残業に関する問題、それに年金などの問題は需要が伸びており、社会保険労務士の重要度は増しています。労災保険法や厚生年金法など関係する法律に精通した社会保険労務士は、これらの悩みを持つ人にとって頼りになる相談相手といえます。
社会保険労務士になるには、試験に合格して国家資格を得ることが必要です。試験は年1回、例年8月に行われており、試験科目は労働基準法及び労働安全衛生法、雇用保険法など計8科目となっています。受験資格は短大卒と同程度以上の学歴か2年以上の実務経験、あるいは行政書士資格を持っていることなどです。合格率10%程度の難関ですが、35歳以上の合格者が多いのも特徴です。就職先には社会保険労務士事務所や企業の労務担当部署などがあります。
おすすめ資格3.行政書士
行政書士は官公庁に提出する書類の作成などを行う仕事です。会社設立や建築業許可、飲食業の営業許可など許認可に関する書類が多く、これらを提出する申請代行の仕事まで含みます。さらに財務諸表や内容証明郵便などの事実証明に関する書類や、遺言書や会社の定款など権利義務に関する書類の作成も行っており、これらの業務は行政書士の独占業務となっています。単に書類を作るだけでなくそれに関わる相談を受けることもあり、コンサルタント的な側面もあるのが行政書士の仕事です。なお、行政書士だけで行えない業務は弁護士や司法書士と共同で行うことがあり、これを共管業務といいます。
行政書士は国家資格で、取得するためには試験を受け合格することが必要です。試験は年1回、11月に行われています。試験科目は基礎法学や憲法、行政法などの「法令等」5科目と、政治経済や情報通信などについて問う「一般知識等」1科目の計6科目です。受験資格は特になく、年齢・学歴に関わらず誰でも受けることができますが、合格率は5~10%の狭き門となっており、やはり法律について専門に勉強している法学部の学生が有利でしょう。
行政書士の代表的な就職先は士業事務所ですが、建設業や不動産業など許認可関係の書類作成が多い企業での需要もあります。また、一般企業の法務部や総務部でも法律の知識を生かして働くことができます。
※2022/3~2023/3の当社相談参加者へのアンケートで『満足』『どちらかといえば満足』を選んだ方の割合
法学部の就職~まとめ~
法学部生の就職先は、法曹界だけでなく金融・商社やコンサルティング会社などの民間企業まで多岐にわたっています。法曹界へ進むには司法試験を突破しなくてはなりませんし、民間企業は必ずしも法学部が有利とも限らない場合もあるので、いずれにしても入念な準備が必要です。法律の知識そのものを生かすのか、あるいは身に着けた考え方を生かすのか、よく考えた上で納得のいく就職先を選びましょう。
※2022/3~2023/3の当社相談参加者へのアンケートで『満足』『どちらかといえば満足』を選んだ方の割合
⇓⇓25卒・26卒の方はコチラ⇓⇓